「獣の柱」に潜む謎と幸福感

大好きな劇団・イキウメの作品「獣の柱」が現在、YouTubeで無料公開されている。

 

https://youtu.be/I2HSfEQi4u4?si=t3uHzMdWt207IDOF

 

「関数ドミノ」「散歩する侵略者「太陽」など、イキウメの作品はどれも大好きなのだけれど(何よりどの作品もタイトルがかっこよすぎる!)、この「獣の柱」は特に印象に残っている作品の一つ。それは、この作品の初演版を見たことが、自分が「演劇」という娯楽にハマるきっかけになったからだ。

 

この物語のキーとなっているのは「一度目にしてしまうと、心が幸福感で満たされ思考が一切できなってしまう」という謎の物質。この存在を巡り、世界中がパニックに陥ってしまう。この設定だけを聞くと「デスノート」だったりSFコメディのようなものを想像してしまうけれど、物語はホラー要素やサスペンス要素を交えてスリリングに展開し、さらには宗教や社会問題問題(人口問題、食料危機等)にまでテーマを広げていく。それでいて大風呂敷を広げているような印象は全くなく、それらの要素はある意味投げっぱなしのまま物語は収斂していく。でもそれが不思議と作品を観終えた後の幻想的な心地よさに繋がってゆく。

 

物語がシリアスになりすぎるのを中和し、日常性を取り戻させる安井順平さんの存在はほんとうに素晴らしい。「エルピス」や「ブギウギ」での活躍も記憶に新しいし、もっともっと観てみたい俳優さんの一人である。

 

舞台芸術だからこそできる「世界の崩壊」を表現する演出術や、観客が能動的に作品に参加するからこそ楽しめる「演劇」というエンターテイメントの楽しさがこれでもかと込められたこの作品。とにかくより多くの人にこの作品に触れてほしい。